無職日日枯園に美術館ありき
つみふかき女人との雪を見し
夜の霜いくとせ蕎麦をすすらざる
女人咳きわれ咳きつれてゆかりなし
死にたれば人来て大根煮炊きはじむ
葱を切るうしろに廊下つづきけり
わが死後に無花果を食ふ男ゐて

 戦後大阪俳壇を牽引した孤高の作家、下村槐太。多くの弟子をもちながら突然の俳句断絶宣言、そして再開。誰よりも厳しく俳句に向き合った俳人の、さびしく美しい記録。自選句集『天涯』及び槐太の全句を収録。

収録作品
天涯
下村槐太全句集より全句